独立してよかったと思えることの一つに予定を自由に組めるようになった。という部分があります。妻の実家は尾花沢のスイカ農家で、勤め人時代は週末限定の手伝いでしたが今年はいままで以上に顔を出すことができました。このコラムでは畑での出来事や作業を通じて感じ入ったことなどをつらつら書き連ねてみたいと思います。
畑に立つ
全国的にスイカの名産地で知られる尾花沢市。その中心地からやや東に位置する行沢地区に妻の実家がある(豪雪地帯の尾花沢の中でも特に雪深いところ)。所有するスイカ畑は二つ、基本的に家族だけで栽培しているので忙しい時期などは私含め親戚や地域の方がその作業を手伝っている。今年初めての手伝いは5月3日。といっても私が手伝える段階を迎えたのが今日、というだけで畑作りは一ヶ月以上前から始まっていたらしく、畑にはたくさんのスイカが実ってくるであろうトンネルが列をなしていた。
初日で出鼻を折ってくれたのは畑を横断するどでかい足跡。まさかと思ったが「熊だね。」とお義父さん。怯んでいてもしょうがないので作業に集中しなければ。この日の作業は苗を畑に植えていく定植。里芋の定植なら経験がある私だったが、スイカの場合は植えたところに紙製の傘を被せ、割り箸で固定する作業が加わる。

次はビニール張りにかかる。トンネルとトンネルの間に透明のビニールを隙間なく張っていく。と文にすれば一言だが10キロ以上あるロールを運び、土台に設置してカラカラと広げ(この時風が吹くと皆のストレス指数が一気に高まる)てはビニールの左右、そして真ん中にハンマーで金物を打ちつけていく作業はけっこう時間がかかる(4人がかりでも数日は必要)。しかも今年は何故か畑の土がフカフカしていて歩きにくい。原因は昨年の暖冬で降雪量が少なく、土に雪の重しがかからなかったため柔らかい土になってしまったという。温暖化の影響はこんなところにも…なんて思いながらせっせとビニールを止めていく。屈んだり立ったりを繰り返したり中腰での横移動が多いこの作業は腰にくる。このたった1日動いただけで私の腰はすでに悲鳴をあげていた。
収穫までの道のりと様々な来訪者


定植から約1ヶ月半が過ぎた6月16日。トンネルの中の苗はぐんぐん育ち、そのツルは外まで広がっていた。この日は後に大活躍する電気柵設置とマット(通称、皿)洗い。前者は猿の侵入を防ぎ後者はスイカを病気から守ってくれるともに心強い味方である。猿は怖い。聞くとある農家さんは集団の猿によって何百万もの被害を被ったという恐ろしい話を聞いたことがある。


翌週の6月29日。この段階でスイカはかなり大きくなっているのだが、そろそろ選定がはじまる。一つの苗から育つ全てのスイカを出荷するわけにはいかない。その数を絞ることでより栄養がいきわたり、より甘く大きいスイカを育てるための大事な作業。それが選定である。お義父さんと私、お義母さんと妻の二人一組体制に分かれて畑をぐいぐい進んでいく。先に行くお義父さんお義母さんがスイカの選定し、後をついていく私と妻が残されたスイカのお尻に先日洗ったマットを敷いていく(マットは割り箸で固定。スイカにふれないよう細心の注意が必要)。慣れてくると避けていいスイカが分かってくるもので、時折尋ねながらではあるが単独で選定をしてみる。生い茂るツルの中を分けいってガサガサ体を突っ込んでいく私をみて「すっかり農家の人みたいだね。」と妻。そう言われ悪い気はしなかったがやはり腰が痛くなってきた。


成長著しいのはスイカだけではない。雑草がビニールの隙間からぐんぐん伸びている。何気なく雑草を抜いてみるとその根本から土がこぼれてがスイカのツルに少しかかってしまう。すぐさま「そういう抜き方しないで!」と妻が。ちょっとムッとしたが「肥料が混ざっていない土を被ったスイカは病気になりやすいんだから。」と言われ「ふむ。」と納得。ある意味猿よりも怖いのが病気である。一つのスイカが病気に罹ると一列全滅…なんてこともあり得るそうだから気をつけなければいけない。
次の週末7月6日と7日。この一週間は雨模様が続いたため作業が増える。雨に強いスイカでも長時間水に浸るのは病気リスクが心配されるらしい。大きくなった玉がその重みで沈み、マットの底に溜まった水に浸からないようビニールを刺して水抜きしなければならない。また、日光が当たりにくい部分 -お尻の方- が成長と共に黄色くなってくるのでマット上でスイカの角度を変える通称皿回しという作業も加わる。これら作業を私たちに託したお義父さんは消毒作業へ移る。私と妻は週末のみの手伝いだがお義父さんとお義母さんは雨が降るたび毎回この作業をしているのか。
まだまだ気は抜けない。スイカの成長を待っていたかのように今度はカラスが寄ってくる。キラキラと日光が反射するカラス余けアルミテープをトンネルの端から橋へ張りめぐらせる(そういえばいつの間にか畑の4方に鳥よけのピアノ線も張られていた)。とにかくスイカの成長と並行してやらなければならない作業はどんどん増えていく。


ひとしきり作業が終わり、妻の実家へ戻ると何やら外が騒がしい。お隣の畑に猿が出てきたという。その猿はいかにも狡猾そうで、威嚇用のロケット花火にも全く動じることはなく平然としていた。こんな猿たちが集団で押し寄せてくるかと思うと恐怖でしかない。
そんなこんなで帰宅。週末だけの手伝いではあるが私もそろそろ疲れが溜まってきた。そういえば以前「土と触れる農業って憧れるよね。」なんて寝ぼけたことを言ってきた人がいた。だったらあんたがやればいいじゃんって改めて思った(この原稿を書いている今でもそう思う)。