山形の企業 2025.02.26

車と私のここだけの話

専門店のエトセトラ

国道13号を車で走らせ青田方面へ。左手側に見えてくるデジタルサイネージには「整備対応率98%」と力強い文字が浮かぶ。サイネージを左に曲がるとこの自信に裏打ちされた活況をしめすように納車待ち、整備待ちの車がズラリとしかも規則正しく並ぶ。その奥に見えるのがサイトー自動車販売。今回私は同社で活躍する二人の話を訊くためここを訪れました。

整備担当の小神さんと保険プランナーの長岡さん。分野は違えど専門店ならではの仕事へのこだわりや面白さ、思わずこぼれた本音などを、現場レポートと共にお届けします。

INFORMATION
サイトー自動車販売
サイトー自動車販売

1979年創業。BtoCのみならずディーラーや同業者からも依頼が集まる県内有数の輸入車専門店。2019年秋に旧社屋をリノベーション、販売・整備・保険とあらゆる角度からカーライフを「自社完結」でサポートする企業姿勢で多くの顧客ニーズに応えている。

https://saito-zidousya.jp

シンプルな日々が一番楽しい

第一声「宜しくお願いします!」と笑顔でインタビューにのぞんでくれた小神さん。入社2年目、同社の整備スタッフの中では一番若く、そして誰よりも急成長を遂げているのが小神さん。主な担当はドライブレコーダーなどの機器関連取付けと「磨き」と呼ばれるボディの仕上げ作業。「実はうちで一番磨きが上手いのが彼女なんです。」と太鼓判を押すのは佐藤社長。聞けば同社で扱う車全ての磨きを一手に任されているという。2年という短い期間でここまで腕を上げることができた秘訣はあるのであろうか。

高校卒業後は接客畑にいた小神さん。道の駅で6年勤め、その後ガソリンスタンドへ。「元々人と話をするのが好きで、自然と給油の時に客さんと世間話をしてました。」気がつけば常連客から顔を覚えてもらっていた小神さんがサイトー自動車販売との縁生まれたのがこの時。給油の度に会話を交わす間柄だった佐藤社長との話の中で思わず、昔から車が好きだったこと、次に就職するならもっと車そのものに携わる仕事をしてみたいと話してみたところ「じゃあ、うちに来てみる?」と声をかけてもらったという。

口に出すと叶うこともある。しかし、整備に関して専門的な知識や経験はゼロ。だけど今はチャンスを掴む方が大事!と考えた小神さんは実地の時間をいかに濃いものにするか考えた。「はじめに基本的な技術は教えてもらいましたが、その後は気になったことは即質問!…じゃなくて、一旦ネットで調べるなり空いた時間に練習するなりして、答えを固めた上で先輩や工場長からアドバイスをもらっていました。」そのトライアンドエラーは着実なものとして小神さんの力になっていく。

「趣味は食べ歩きです。」と今時の子という印象もある小神さんだったが、取材中、チラチラと目が入っていたの彼女の手元、その手の甲には色々な要件が書き込まれていた。「これはクセなんです。いちいちメモを取り出してペンを取って…この手間がもったいないんです。」これで先ほどの話も納得できた。作業を中断して集中力を切らせたくないという。それだけ小神さんは目の前の仕事に没頭しているのだ。

仕上がりを隔てるもの

小神さん愛用の機材関連。ダブルアクションのポリッシャーをはじめコンパウンド等はRUPESの純正品を使用。

その後は実際に磨き作業をひとしきり見学させてもらった。インタビューの時のリラックスした雰囲気から想像できないその表情はまさに真剣そのもの。車と向き合い淡々と作業をこなす小神さんを見るにつけ、ある疑問が浮かんできた。磨き作業において技術面の良し悪しや仕上がりの差はどこに生まれるのだろうか。
「磨きの前工程だと思います。埃やウォータースポット、鉄粉を見逃さないこと、それらが残っている状態で磨いてはツヤを出す以前にボディに傷が残ってしまいます。」

「それと、どこまでデリケートになれるか。磨きと一言で括っても毎回同じことの繰り返しではありません。新車、中古車、一台一台コンディションは違いますし、天候によっても作業のさじ加減は微調整するようにしています。」

この話を聞いて、もしかして磨きには女性ゆえのアドバンテージもあるのではと思ったが「確かに下地を整えてコーティングしていくという点では化粧との共通点もありますね。」と小神さん。しかし作業にあたる直向きな眼差しを見ればそれは他愛のない質問だったということにすぐ気付かされた。女性だからどうのこうのという次元ではない。本人のたゆまぬ努力と研鑽があって今があるのだから。

120%のポジティブさ

車にもっと携りたいと想い同社に入社した小神さん。実はいつも心がけていることがあるという「目の前の仕事を正確かつ早くこなす。この工場でいつも私だけ帰る時間が早いんです。それが嫌で。なるべく早く自分の手を空けて『何かありませんか』と聞くようにしています。」

「だから別に早く帰りたいとか全然思わないんです。」と小神さん。自分のやれる仕事をどんどん増やしていきたい。ワークライフバランスなんてどこ吹く風。その意気込みにはどこか清々しさすら感じる。

ちょっと角度を変えて、新しい社員さんが入ったら磨きを任せて新しい仕事に移れるのでは?と聞いてみた。「それが自然な流れかもしれませんが、そういった形で今任されている磨きを手放したくないですね。今の状況で任された仕事をこなした上で次の段階へチャレンジしていきたい。」と、いい意味で貪欲な姿勢を貫く小神さん。次に会う時はすでに新しい作業に取り組んでいる小神さんの姿が見れるかもしれない。

車と安心と保険

車の保険と聞くと、CM等でよく見かけるダイレクト型の保険をイメージする人が多いかもしれない。確かに手軽さや値段は魅力的かもしれない。しかし、入る前と後で大きく印象が違ってくるのがこの類であることと、もう一つの選択肢があることを知ってもらいたいと、私は思っている。

万が一は突然やってくる。ある晴れた日曜の午前、山形から新潟へ向かう道中私は貰い事故に遭ってしまった。ごく普通の緩やかカーブで対向車が突然車線をはみ出して突っ込んできた。急いでハンドルを切るも間に合わず車は正面衝突…相手は居眠り運転だった。一命は取り留めたものの車は大破し立ち往生。その時、急ぎレッカーで駆けつけてくれたのがサイトー自動車販売だった。

と、ショッキングな書き出しとなってしまったが(自分でも書いていて辛くなる)、事故に遭い動けなくなった時は1秒でも早く来てもらいたいのがこのロードサービス。が前述のダイレクト型ではそのスピード感に難があるのは否めない。コールセンターへ連絡してからレッカー業者が動くまでには、保険会社が「その時つながる」業者を探し、状況を伝達するという時間がどうしてもかかってしまう。その点、保険の代理店として対応と整備が一体になっているサイトー自動車販売さんの対応はダイレクト型と比べものにならないくらい、早い。

数よりも大切なこと

保険会社に長く勤めていたこともありプランナーとして経験豊富な長岡さん。その静かにゆっくりと話す口調から穏やかな人柄を感じることができる。話を聞くとサイトー自動車販売に来てからは「保険」そのものの印象が変わったという。
「あまり大きな声では言えませんが、前いた所はどれだけの数の契約を取れるかが重視されていました。また、実際に何かあっても組織のシステム上その後何がどういった動きがあるのかわからず、数字とばかり向き合っていましたが今は真逆です。何かあれば目の前で現場が動きますし、その後の経過も見れるようになりました。」

休車時間の短縮。これは同社が創業以来徹底している言葉である。そのために社内のスムーズな連携は欠かせないという。「人でいうカルテを車に置き換えると整備履歴となります。過去に何度車検を通っているか、トラブルや事故はなかったか、車の状態をどこまで把握しているか否かで対応するスピード、質は変わってきます。」そして長岡さんが管理する顧客情報をもとにロードサービス、修理、その後のメンテナンスを担当するのが熟練の整備スタッフ、その間長岡さんはアフターフォローに取り掛かる。行き届いた整備と何かあった時に支えとなる保険。この二つが揃って初めて安心のカーライフといえる。代理店である以上、責任を最後まで全うするのは当然と考える同社の方針がここにある。

あえてトラブルが起きてからの流れを記してきたが、もちろん何も起きないに越したことはない。「何かあったときにお客様の負担を少しでも軽くなるようプランを立てるのが私の役目です。」長岡さんは言葉を続ける。

「…ですが一方通行のプランにならないように、お客さんとの検討作業を何よりも大切にしています。国産車と輸入車どちらに乗られているのか、頻度は通勤だけなのか仕事にも使うのか。バイクの場合は冬は乗らないという方もいます。お客様一人一人のカーライフは違います。無駄なお金を払う必要もありませんが、手薄な内容で後悔はしてもらいたくないので。」また、趣味や休日の過ごし方にも話はおよぶ。例えば車で旅行に行ったりバイクでツーリングするか等も気になるポイントになってくる。このように細かく質問しながら理解を深めていく、そんな懐の深さを長岡さんは持ちあわせている。

保険の最適解とは

これからやってみたいことを聞いてみた。
「弊社で預からせてもらっている車のほとんどは保険に加入してもらってますが、時間があれば全部の顧客情報を見直した上でプランの提案をしていきたいです。特に気をつけなければいけないのが年に一度の更新時期です。保険は毎年内容が変わったり新しい商品が出たりします。その都度連絡はしていますが『前と同じ金額ならそれでいいよ』とおっしゃる方もいるので、そういう時に限ってカバーできないトラブルが起きてしまう可能性が高いんです。」

色々と聞いていて、長く保険というものに携わってきた経験がそうさせるのか。長岡さんは時々心配し過ぎるきらいがあるように思えた。だけどそれだけ親身になっているという証明でもある。「本当は私がお客様のところを一人一人周りたいくらいなんですが、そうもいきませんのでお茶を飲むついでとか、どんな理由でもいいので一度当社にお足を運んでみてください。」と話す長岡さんは本当の意味での顧客に寄り添う姿勢をもっている。

取材を終えて

整備の小神さんと保険の長岡さんそれぞれが口に出して言わなかったが自分の仕事に誇りを持っているような静かな自信をたたえているように思えた。取材の前は「普通の仕事なので面白いか分かりませんよ。」と言われたこともあったが、やっぱりそんなことはなかった。当たり前とされる作業に心血をそそぐことはこの上なく立派なことだ。二人の作業には、それぞれの価値と想いがしっかり息づいている。