沖津さん
山形の企業 2025.01.20

「ひと」を大切に

沖津さんの仕事術

山形市を中心に活躍する株式会社沖津。同社の代表取締役をつとめる沖津さんは一見若くみえますが、10代の頃より塗装業界に入り、2013年に独立。昨年法人成りし現在に至るまで塗装一筋20年のベテランです。

 

業者数が多い塗装業界の中で、沖津さんが立ち上げた新しい会社はどんな打ち出しをしているのか?私も新たに独立した身として参考にしたいと思います。それでは実際の沖津さんの仕事ぶりに注目すべく現場レポートをお届けします。

INFORMATION
株式会社沖津/代表取締役 沖津卓也さん
株式会社沖津/代表取締役 沖津卓也さん

2023年設立。塗装を中心に外装から内装工事まで手がける職人集団。今日も「人」を大切に。を合言葉に建物へ新たな命を吹き込む。

 

Web : https://okitsu33.co.jp

Instagram : https://www.instagram.com/okitsu33/

依頼は400㎡全塗装

現場は寒河江市内の農家さん。あたり一面に田畑と青空が広がる穏やかな雰囲気。現場について車を降りると「お疲れ様です!」と頭上から声をかけられる。見上げるとすでに屋根で作業をしている沖津さんと二人の社員さんの姿が。

まずは休憩場所を借りて打合せ。そこは農家さんの納屋で、ビールケースを積み上げ天板を載せた即席テーブルの上には缶コーヒーや煎餅など差し入れが並ぶ。なんとなく、このしつらえを見ただけでも施主からの信頼感が垣間見える。ひとしきり打合せを終えた後はいよいよ私もヘルメットを被り屋根上へ。

今回の作業内容は家屋屋根の全面塗装。築年数40年以上と思われ経年劣化が進みサビや退色が著しい。その面積はなんと約400㎡。平均的な2階建て家屋の屋根面積は80〜150㎡といわれているため相当な作業面積である。

沖津流、ノリとこだわり

屋根塗装の基本工程は

の3段階。この日下処理は既に完了しているのでサビ止めと上塗りへ。現場の作業範囲が広いためローテンションを組みながら作業を順次進めていく。

この日は黄砂混じりの風が強く、足踏み外さないよう細心の注意が必要だ。実際屋根上にいるとけっこうこわい。私は作業実景をカメラに収めるわけだが、その中で気になるやり取りが。強風が吹きつける度に「こうじ〜。翔太〜。大丈夫が〜。」と声をかけている沖津さんと「大丈夫ですよ卓也さーん。」と返す二人。そこには現場特有のピリピリ感はなく、皆のびのびと作業に集中している、いい意味でアットホームな雰囲気が伺えた。

現場にお昼がやってきた。私がちょっと楽しみにしていたのがokitsu33のストーリーズで時々見かける社員弁当で、沖津さんの奥さんが毎日手作りで3人分(!)を用意してくれているのだ。一見箱が大きい、そして食べるのが早い!さすが職人だと感心していたら「田中さんの弁当も見せてくださいよ〜」と沖津さんが言い出した。かくいう私も弁当を持参していたのだがちょっと気恥ずかしい。まるで学生時代のノリだなと思ったが、先ほど感じたアットホームな雰囲気の正体はこれなのかもと思い、先程気になっていたコミュニケーション術について質問を投げてみる。

Q1.フランクな関係について

「会社では社長と呼んでほしくないんですよ。自分も皆を下の名前で呼ぶようにして、上司と部下、じゃなくて先輩後輩みたいな関係性でいたいんです。」

Q2.株式会社沖津ならではの取り組み

「社員一人一人に車を預けていて、基本的に出勤は直行直帰制です。早く現場が終わればその分ゆっくり休んでもらって、各々プライベートの充実にもあててほしいと思ってます。」

これらの考えに至った理由は沖津さんの経験からきている。仕事を終えて家に帰ったら寝るだけ。起きたらまた仕事といったサイクルはやめようと。

確かにコロナ禍以降、出社を起点とした働き方が見直された今、このスタイルは理にかなっているかもしれない。一方対面の時間が減ることでコミュニケーションが不足する心配はないのかと聞いてみると「その点は大丈夫です。自分も毎日現場に出てますし、というより自分は現場に必ず出ていたいんですよ。それと月一でお疲れ様会も開いてます。お互いため込むことがないように、ざっくばらんな関係でいたいんです。」と全く問題なさそうだ。その他にも色々話し込んでしまって皆さんの休憩時間を削ってしまった。少し後悔してしまう。

トータルで「ひと」のために

午後の部スタート。天候は午前よりはやや穏やかに。続いて作業へのこだわりも聞いていく。「サビ止めは2液のエポキシ塗料を、上塗りはラジカル塗料をメインで使っています。予算の範囲内でなるべく良い材料を使いたいんです。」

屋根塗装の材料はシリコン塗料が一般的とされる。作業の特性上(高所作業かつ作業量が多い)どうしても高額になりがちな屋根塗装において、コスト面への配慮が大きな理由なのだが「仕上がりや耐久性を踏まえると、もう1段階グレードを上げた方が良い」という沖津さんの判断がある。「それと、若干身内寄りの発想かもしれませんが、着工日はできるだけ良い日に合わせています。」仏滅などをさけ、大安など吉日に合わせて工程を組む。これは無事故でいられるようにとの願掛けでもあり、何事もなく工事を終えることはお客さんの安心感にもにも繋がるのだろう。

さて、私もそろそろ屋根上の移動に慣れてきたので、離れて作業している二人と個別に話を聞くことにする。

二人とも沖津さんとは旧知の中で、共に会社設立時に入ったスターティングメンバーである。そのため会社に対する思入れは深い。また二人は入社前に別業種の仕事に就いていたこともあってか塗装の仕事は好きですかと聞いてみたところ二人とも「もちろんです。」と即答。その言葉に嘘はなく、ファインダー越しからも「楽しい」「充実」といったポジティブな感情がひしひしと伝わってきた。

その後休憩を挟んで、近くにある自社倉庫の撮影のために私と沖津さんは現場を離れることに。帰り際改めて二人に挨拶を。朝と変わらない爽やかさで「お疲れ様でした!」と返してもらえたのが嬉しく、いい心待ちで私は現場を後にした。

実践あるのみが沖津流です

取材終盤は自社倉庫を案内してもらう。倉庫内にずらりと並ぶこの足場、30〜40坪をカバーできる物量があるという。沖津さんに自社足場を持つメリットを聞いてみると、お客さんに対するコストの圧縮ができる点、スケジュール調整がスムーズになるなど毎回足場屋さんに外注するよりも様々なメリットがあるという。

ふと壁へ目を向けると「みはらし塗装」の文字が。これは沖津さんが法人化以前、個人事業主時代に愛用していたヘルメットで、独立した時の気持ちを忘れないように…あるいは忙しい時など自分を奮い立たせたるためにずっと飾っていという。

一通り撮影を終え、沖津さんに現場に戻るのかと聞くと「今から別件の打ち合わせに行ってきます!」との答えが。午前中に行けばよかったのでは?と聞いてみると「なんとなくですが、午後から現場に出るのはイヤなんですよ。」現場は全員で始めたいと沖津さんは語る。先ほど「常に現場に出ていたい」と言っていた理由はここにも繋がるのかもしれない。

ここで私は沖津さんは社員と同じ目線でいたいんだろうと思った。常にアットホームな雰囲気作りを心がけている理由もそう。しかし社員と同じ目線で動くとなると、それはそれで大変じゃないか思ったが、沖津さんはそんなそぶりは一切見せない。(経営者がやるべき事は多岐にわたる。)最後に総括的な質問を投げてみた。

「沖津さんは社員をいちスタッフではなくて、チームのように考えている?」

「チームというより、家族ですね!」と沖津さんは我が意をえたりとばかり清々しい返事を返してくれた。この一言で今日感じていたことが全部つながった気がした。

後日談

せっかくなのでもう一つの現場にもお邪魔せてもらった。場所は沖津さんの自宅キッチン(失礼しました)。小さい子どもの面倒をみながら3人分の弁当を毎日欠かさず作っているのは沖津さんの妻まどかさん。

結婚前は七日町屋台村で店を出していた経験もあり、料理は好きな方だというが、とはいえ大変ではないかと聞いてみたが「子どもが4人いると思えばいいので大丈夫です。」とあっさり答えてくれた。まさに縁の下の力持ちというか、もしかして一番会社を支えているのは奥さんなのかもしれない?