コラム 2025.01.15

猫ちゃんとの日々 vol.3

ケージの中が大変なことになっている。トイレは逆さまに、無数の猫砂が中と外に散らばり、柵が無理やりひん曲げられ、その隙間にあんこさんが体を捻じ込んでいる。異様な光景を前に呆然と立ち尽くす私と妻。「苦しそうだから出してあげよう。」曲がった柵をペンチでさらに広げて隙間を広げるとすぐ様飛び出すあんこさん。荒れている。何時間も飲まず食わずにさせられた怒りのままに私に噛みついてくる。でも甘噛みだ。ちょっと安心したけどいつまで続く?あんこさんの怒りは一向におさまらない。

―夢だった。

1月12日の朝5時、あんこさんは昨晩(22時30分頃か)ら一切飲まず食わずで一夜を過ごしている。「クゥーン」さっき見た夢のような獰猛さをうっすら覚えているだけに、その鳴き声は弱々しく助けを呼ぶようにか細い。どうしてこうなったのか…ことの発端はおもちゃの誤飲だった。

1月11日の夜、いつものルーティーン通りおやすみ前のおもちゃ遊びをしていた妻とあんこさん。私は風呂から上がり寝る前に読む本を物色していたその時、「あっ!」という妻の声が。あんこさんがおもちゃの紐を噛みちぎって飲んでしまったという。またやってしまったか…

誤飲騒動

いつも活躍していた革製のおもちゃだったが…

実はここ数日あんこさんのの誤飲疑惑が続いていた。いつの間にかおもちゃの一部が欠けている。幸い欠損部分は数ミリ程度、その後のお通じも普段通りであったため、飲み込んだものは便と一緒に出たのだろうという結論で落ち着いていた。が今回の欠損部分は長さにして1センチ以上、しかも革紐の結び目もある。誤飲のそれは胃や内臓を傷つけ、下手すると腸閉塞を引き起こし、最悪手術にも発展してしまう恐ろしいもの。ちょっとしたパニック状態に陥る私たちを横目に何くわぬ顔をしているあんこさん。「そろそろご飯の時間では?」

わかっていたことだが夜間対応している動物病院は数少ない。仮に電話がつながったとしても対応してもらえることは稀であるという。幸にしてあんこさんの様子に変化はなかったため、明日の朝一に診てもらうとして、問題は今ご飯をあげてもいいかどうかだったが困ったことに全くわからない。私はネットで検索しまくったがなぜかこの類の情報が全く引っかかってこない。それどころか「誤飲の後は一刻をあらそいます」そんな類のソースばかり目にしてしまい不安はどんどん増していく。そっちはどう?と妻の方をみても似た感じ。ならば一旦は自分だちで結論を出すしかない。飲み込んだものと初期症状によって危険度は変わってくると思う。あんこさんは吐いてないし、むしろご飯を食べたがっている。今の状況が軽度のものであることを祈るしかない。そしてあんこさんには今夜は絶食してもらうことにした。

ご飯はもちろん水もだめ。これは過酷すぎると思ったがさっきの検索で「急に具合が悪くなる場合もありますので楽観視しないでください」なんて文を目にしているのでもう気が気じゃない。私たちはいつ何があってもいいように(本当に何かあってもどうしようもないのだが)リビングであんこさんと寝ることにした。私たちは床とソファーに、あんこさんはケージに。実は3人が一緒の部屋で寝るのは今日が初めてだった。

結局損をしたのはあんこさんだった

翌朝5時、あんこさんのせつなげな声で目を覚ます。ふと見やるとケージの中を上へ下へと行ったり来たり「どうして出してくれないの?」とでも訴えているようだった。近くの動物病院は9時から。あと4時間も飲まず食わずは辛いだろう。「具合は悪くなさそうだし、ご飯を食べたらもしかして便が出るかもしれない」と閃いた!が、ネットで調べると食べたものが消化され便となって出てくるまで丸1日はかかるらしい。ということでこの案は望み薄だったが、それよりも絶食状態が続くあんこさんがもう居た堪れない。結局少しだけご飯と水をあげることにした。夜から続く突然の絶食で眠れなかったのだろう、食べてすぐさまウトウトするあんこさん。私たちも同様だった(もっとも妻が言うには私はグーグーいびきをかいていたらしいが…)。出発まで時間、今度は3人で並んで寝ることにした。

出発前、やはり期待していた便は出ず、歩くときに少しふらつくあんこさんの様子が気になった。これが空腹や眠気の影響であってほしい。誤飲物のせいじゃないよねと不安が過ぎる。9時に近づいたので出発の準備にかかる。ところがあんこさんがキャリーに入るのを拒みまくる。まさか今から起こる何かを察知して?またまた疑心暗鬼にかられるがもう腹を括るしかない。半ば無理やりあんこさんをキャリーに格納し出発。普段は車で10分もかからない動物病院までの道のりが途轍もなく長く感じる。そしてこういう日に限って病院は混んでいる。

待ち時間も長く感じたが診察は5分で終わった。

部分欠損したおもちゃを見てもらい「これくらいなら大丈夫です。」「えっ…」と私。妻は言葉を失っている。あんこさんのお腹も診た先生は「腸液も溜まってないようですし次の便と一緒に出てくると思いますよ。」とあっさり。どうやら全てが取り越し苦労のようだった。ということは朝のあんこさんのふらつきは空腹と眠気のせいだったのだろうか?診察が終わると「やれやれ」といった感じで、あれほど出発前に嫌がってたのに自分からキャリーに入っていくあんこさんを見て思わず笑ってしまった。

11時近く。うちに着いてドッと疲れがきた。キャリーの扉を開けると一目散にケージ3階へ駆け込んで行くあんこさんはこの半日踏んだり蹴ったりだったのだろう。しばらくは静かにしているだろうと思いつつ、ご飯だけケージの2階に置いて私たちもソファーで一休みすることにした。

すると2分くらいでご飯に向かうあんこさん。ちょっと早すぎないか?
夢中になって食べている所を撮っていると「邪魔しないで」と言わんばかりに睨まれる
ご飯は瞬く間に食べ尽くされ…
文字通りペロリと平らげてしまった

午後は皆でソファーの上で寝落ちした。あんこさんにとってはいい迷惑だったかもしれないが、結果的に何事もなかったわけで、振り返るとずっと3人(あえて人表記)でいれたことがこの上なく嬉しい。悩み苦しみ、並んで寝て、病院に行き、今も一緒に眠っている。何気ない時間がいかに大切か実感しています。ちなみに誤飲した革紐は無事便の中で確認!今後のおもちゃ遊びがちょっと怖いがとにもかくにも一安心…

以上が田中家を震撼させた誤飲騒動の顛末です。猫ベテランの方にとっては何を大袈裟な。と感じたかもしれませんが初めての経験ということもありとんでもない恐怖体験でした。皆さんもお腹が減った状態でのおもちゃ遊びにご注意を!