塗装面積は400㎡



2024年春。私は寒河江市内のとある農家さんを訪ねた。あたり一面田畑と青空が広がる穏やかな雰囲気。車を停めてドアを開けるとふいに「お疲れ様です!」と声が聞こえた。見上げると屋根上に沖津さんと二人の社員さんさんの姿が。ここが今回の取材させてもらう沖津さんの現場である。


まずは打合せをするべく休憩場所を兼ねた農家さんの納屋に案内してもらう。中に入るとビールケースを重ねた上に天板を載せた即席テーブルの上に缶コーヒーや煎餅など差し入れが並んでいて、これは依頼主である農家さんが用意してくれたんだとか。この温かみあるしつらえを見ただけでも先方との信頼感が垣間見えた気がする。
さて今回の作業内容は、今私がいる家屋の屋根の全面塗装。築年数は40年を超え、経年劣化による合板のサビや退色が著しく、見た目の問題もさることながら雨漏りのリスクも相当高まっているという。それにしても広いお家じゃないかと思い作業面積を聞いてみて驚いた。なんと約400㎡。平均的な2階建て家屋の屋根面積は80〜150㎡といわれているためこれは相当な作業面積である。
沖津流のノリとこだわりで①



屋根塗装の基本工程は
- 洗浄、研磨等の下処理
- サビ止め
- 上塗り
…の3段階。今日の時点で下処理は既に完了していたのでサビ止めと上塗りを実際に見せてもらう。今回特別に屋根に上がらせてもらえるということで、私もヘルメットを着用し、ちょっとドキドキしながら梯子を登っていく。
屋根上は作業範囲が広いので沖津さん含め3人は別々の場所に分かれローテンションで作業を順次進めていく。この日は黄砂混じりの風が強く、足踏み外さないよう細心の注意が必要だ。強風が吹きつける度に「こうじ〜。翔太〜。大丈夫が〜。」と声をかける沖津さんに「大丈夫ですよ卓也さーん。」と返す二人。そこには現場特有のピリピリ感はなくのびのびと各々の作業に集中している、いい意味でアットホームな雰囲気が伺えた。

現場にお昼がやってきた。皆が持参している弁当は沖津さんの奥さんが毎日手作りで3人分(!)を用意してくれているとのこと。(株式会社沖津公式インスタグラムokitsu33のストーリーズ参照)でかい。そして食べるが早い。さすが職人。感心していると突然沖津さんが「田中さんの弁当も見せてくださいよ〜」と言い出した。私も弁当を持参していたのだがちょっと気恥ずかしい。まるで学生時代のノリだなと思ったが、先ほど感じたアットホームな雰囲気の正体はこれなのかもと思い、ついでに社内におけるコミュニケーション術について色々聞いてみたい。
Q1.随分フランクな関係ですね
「自分は立場上社長ではあるんですけど、『社長』って呼んでほしくないんですよ。上司と部下というより先輩後輩みたいな関係性でいたいんです。なので自分も皆を下の名前で呼ぶようにしてます。」
Q2.独自の取り組みは?
「社員一人一人に車を預けています。基本的に出勤は直行直帰制です。そうした理由は早く現場が終わればその分ゆっくり休んでもらいたくて。よく仕事あってのプライベートと聞きますけど逆もまた然りで、プライベートが充実すれば仕事だってもっと充実してくるはずと私は思うんですよ。」
…これらの考えに至った理由は沖津さん自身の経験からきている。仕事を終えて家に帰ったら寝るだけ。起きたらまた仕事。そんな無機質なサイクルは楽しくないなと。
コロナ禍以降、働き方が見直され「まずは出社ありき」といった考えは見直されている。確かにこのスタイルは理にかなっているかもしれない。だが一方で、人と人、対面の時間が減ることでコミュニケーション不足に陥る心配はないのだろうか?
「その点は大丈夫です。自分も毎日現場に出ますし、常にみんなの顔は見ています。というか、自分は現場にずっと出ていたいんですよ。あっそれと月一でお疲れ様会も開いてます。お互いため込むことがないようにざっくばらんな関係でいたいんです。」とあくまで社長らしくない社長の沖津さん。こうなってくるとぜひ社員さんの話を聞いてみたいと私は思った。
気持ちよく、いい仕事に向かっていく事


午後の部スタート。天候は午前よりはやや穏やかに。今度は塗装へのこだわりも聞いていく。「サビ止めは2液のエポキシ塗料を、上塗りはラジカル塗料をメインで使っています。予算の範囲内でなるべく良い材料を使いたいんです。」屋根塗装はシリコン塗料が一般的とされる。それは作業の特性上(高所作業かつ作業量が多い)どうしても高額になりがちなため、そのコスト面への配慮が大きな理由という。しかし沖津さんは「仕上がりや耐久性を踏まえると、もう1段階グレードを上げた方が良い」と判断している。
「それと若干身内寄りの発想かもしれませんが、着工日はできるだけ縁起の良い日に合わせています。」仏滅などをさけ、大安など吉日に合わせて工程を組む。これは無事故でいられるようにとの願掛けでもあり、何事もなく工事を終えることはお客さんの安心感にもにも繋がるのだろう。
私もそろそろ屋根上の移動に慣れてきたので、離れて作業している二人と個別に話を聞くことにする。


二人とも沖津さんとは旧知の中で、共に会社設立時に入ったスターティングメンバーである。そのため会社に対する思入れは深い。また、それぞれが入社前に別業種の仕事に就いていたこともあってか塗装がとにかく楽しいと口を揃える二人。ごく当たり障りのない質問かもしれないが「この仕事は好きですか?」と聞いてみる。
「もちろんです!」
と二人とも即答。その言葉に嘘はなく、ファインダー越しからも「楽しい」とか「充実」といったポジティブな感情がひしひしと伝わってきて、何だか話を聞いている私も清々しい気持ちになってきた。皆の淀みのない作業。みるみるうちに朱色の屋根は真新しい雰囲気をたたえていく。
その後、15時の休憩を挟んで、近くにあるという自社倉庫の撮影のために私と沖津さんは現場を離れることに。帰り際改めて二人に挨拶を。朝と変わらない爽やかさで「お疲れ様でした!」と返してもらえたのが嬉しく、いい心待ちで私は現場を後にした。
沖津流のノリとこだわりで②

取材終盤、今度は自社倉庫を案内してもらう。倉庫内は足場をはじめ作業用の備品がずらりと並ぶ。特に目を見張ったのが足場で、30〜40坪をゆうにカバーできる物量があるという。建設・建築業界では足場屋さんも多い中、自社で足場を持つメリットとは?「コスト面の圧縮が一番ですね。それとフットワーク。毎回足場屋さんとスケジュール調整するよりババっと動けた方が早いですし、いいことずくめですよ。」と沖津さん。

ふと、壁に掛かっているヘルメットをみると「みはらし塗装」の文字が。これは法人化以前の個人事業主時代からずっと使っていたヘルメット。「独立した時の気持ちを忘れないように…あるいは忙しい時など自分を奮い立たせたるために飾っています。」
ひとしきり撮影を終え、沖津さんはまた現場に戻るのかと思いきや「今から別件の打ち合わせに行ってきます!」午前中に行けばよかったのではと思ったが「うーん。なんとなくですが作業の途中から現場に出るのはイヤなんですよ。」作業はきちんと全員で始めたいと沖津さんは語る。先ほど「常に現場に出ていたい」と言っていた理由はここにも繋がるのかもしれない。
私は、もしや沖津さんは社員と同じ目線でいることを大切にしているのではと思った。現場でアットホームな雰囲気作りを心がけている理由もきっとそうだ。しかし社員と同じ目線で動くとなると、それはそれで大変じゃないか思った(経営者がやるべき事は多岐にわたる)が、沖津さんはそんなそぶりは一切見せようとしない。それって地味にすごいことなのでは。
「沖津さんは社員をいちスタッフではなくて、チームのように考えている?」と私が聞くと、
「チームというより、家族ですね!」
沖津さんは我が意をえたりとばかり、清々しい返事を返してくれた。この一言で今日感じていたことが全部つながった気がした。
余談


せっかくなのでもう一つの現場にもお邪魔せてもらった。場所は沖津家のキッチン(失礼しました)。小さい子どもの面倒をみながら、毎日3人分の弁当を欠かさず作っている沖津さんの妻まどかさん。
結婚前は七日町屋台村で店を出していた経験もあり、料理は好きな方だというがこれが毎日では大変でないかと聞いてみたが「いえいえ。子どもが4人いると思えばいいので大丈夫です。」とあっさり答えてくれた。まさに縁の下の力持ち。もしかして一番会社を支えているのはまどかさんなのかもしれない。

